大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所 昭和47年(ワ)650号 判決

亡岡田俊造受継者原告

岡田アキミ

外二名

右原告ら訴訟代理人

馬場秀人

被告

吉野信篤

株式会社信永産業

右代表者

吉野信篤

右被告ら訴訟代理人

飯田信一

主文

被告吉野は、原告らに対し、別紙目録(二)記載の建物を収去して同目録(一)記載の土地を明け渡し、同目録(三)記載の建物から退去してこれを明渡し、昭和四七年九月一〇日以降右明渡し済みまで一か月二万五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。

被告会社は、原告らに対し、同目録(二)記載の建物から退去して同目録(一)記載の土地を明渡し、同目録(三)記載の建物から退去してこれを明渡せ。

訴訟費用は、被告らの負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告ら

主文同旨の判決ならびに仮執行宣言

二、被告ら

「請求棄却、訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決

第二、当事者の主張

一、原告ら

(請求原因)

1 別紙目録(一)記載の土地および同目録(三)記載の建物は、いずれも、もと亡岡田俊造の所有であつたが、同人は本訴提起後である昭和四七年一二月二三日死亡し、同人の妻である原告アキミが三分の二、右俊造の死亡前既に死亡していた同人の弟衛の子である原告聚および同京子が各六分の一の割合で相続により、それぞれ俊造の権利関係を承継した。

2 被告吉野は、昭和四七年九月一〇日以前から、右土地上に同目録(二)記載の建物を所有し、右土地ならびに同目録(三)記載の建物を占有し、原告らの右土地および建物の所有権に基づく使用収益を妨げ、一か月三万円の賃料相当の損害を被らせている。

3 被告会社は、右各建物および土地を占有している。

4 よつて、原告らは、被告吉野に対し、同目録(二)の建物を収去して(一)の土地を明渡し、(三)の建物から退去してこれを明渡し、右土地建物不法占有後である昭和四七年九月一〇日以降右明渡済みまで一か月二万五〇〇〇円の割合による損害内金の支払いを求め、被告会社に対し、(二)の建物から退去して右土地を明け渡し、(三)の建物から退去してこれを明渡すことを求める。

(抗弁に対する答弁)〈以下略〉

理由

一原告ら主張の請求原因事実については、当事者間に争いがなく、原告ら先代の俊造が昭和四一年一月ころ目録(一)の土地および(三)の建物を被告吉野に賃貸したことは原告らの自認するところであり、右賃貸借契約が建物所有を目的とするものであることについては原告らが明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。そこで以下原告ら主張の右賃貸借契約の終了の有無について検討する。

二当事者間に争いのない事実と〈証拠〉を総合すれば、俊造は、従業員一名を雇つて、目録(三)の建物内で製材業を営んでいたが、昭和三五年五月一日被告吉野の父が経営する訴外株式会社吉野木材に、右建物内にあつた製材用機械を賃料月額二万五〇〇〇円で貸与し、右従業員も引き続き同会社に雇傭させることとし、目録(一)の土地が当時空地であつたので、訴外会社がこれを材料置場ないし製品置場として使用することを了承していたこと、訴外会社は間もなく、右空地の北東隅に約6.61平方メートル(二坪)余りの平家建トタン葺の事務所を建て、その後同事務所の二階を作りさらに南方にこれを拡張し、その後新しい製材用具を設置するため同土地西側に一棟を建設、その後さらに右二棟の建物にかけて二階を増築し、同会社が後記倒産するころまでにはほぼ目録(二)の建物を建築して保存登記を了していたこと、この間、俊造は不本意ながら右建築を承諾したが、賃料は前記契約のまま変更しなかつたこと、訴外会社は同四〇年末ころ倒産し、間もなく、被告吉野が右会社にかわつて個人として製材業を営むようになり、俊造に対し、従前と同様の約定で右物件を賃借することとなつたこと、その後同四三年秋ころ右賃料を三万円に改めたこと、そして、同四七年春ころ俊造から家賃が安く生活に困るので、自動車置場として使いたいから、右物件を返還して欲しい旨の申出を受けたが、同年七月末ころ、ひそかに目録(二)の建物の改築に着手し、すでにひそかに使用していた二本の鉄製の梁に加えて、北側道路に面した部分の木造の柱四本を重量鉄骨(三本はH型鋼二五〇×二五〇ミリメートル、一本は一二五×一二五ミリメートル)にかえ、そのうえに同じくⅠ型鋼の梁を、また中心部にかけて鉄製の梁一本をかけ、その他の造作の改造、改装に着手し、翌八月四日これが俊造方に知れることとなり、同日俊造の代理人として原告聚が同被告に工事の中止明渡し方を求めたが、そのまま工事を続行したこと、そこで俊造は同月一二日ころ同被告到達の書面で右無断改築を理由として契約解除の通知をなし、工事禁止の仮処分命令をえてこれを執行したこと、他方(三)の建物は、昭和二一年の建築にかゝるバラックであり、昭和四七年七月当時から、木材が相当腐しよくし、すでに柱はくさり、梁は折れて倒壊寸前の状態にあつて朽廃しており、内部の製材用機材も古くなつて使用せず、雑材の置場としてのみ使用されている状態にあること、また前記俊造と訴外会社との間の賃貸借契約においては設備、営造物の模様変え、もしくは新設する場合は賃貸人の承諾を要する旨の約定があつたこと、以上の各事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

三右認定事実によれば、(三)の建物はすでに朽廃により、その効用を失つたものとみるべきであるから、原告らと被告吉野との間の同建物の賃貸借契約は終了したものといわねばならない。また、原告ら側と被告吉野との間の目録(一)の土地賃貸借契約は建物所有を目的とするものであることは前記認定のとおりであるが、前記成立の経過からして明らかなとおり、元来目録(二)の建物内の製材用具の賃貸借に伴つて発生したものであり、本来の賃貸借契約たる目録(三)の建物の賃貸借契約(製材用具の賃貸借は該建物の賃貸借契約と不可分のものとみるべきである)がすでに終了したものである以上、これに附随して発生した右土地賃貸借契約の賃借人は、当初より建物所有を目的としてなされた借地契約の場合とは異なり、賃貸人との間でより強度の信頼関係が要求されるものと解するのが相当であり、被告吉野が原告ら先代に無断で右土地上の建物に重量鉄骨を加えて改築したことは、両者間の前記無断増改築禁止の特約に違反し、賃借人として著しい背信行為といわねばならず、これを理由にしてなされた俊造の前記解除の意思表示は有効といわねばならない。被告は、右無断増改築禁止の特約が借地法に反して無効である旨主張するが、借地法八条の二の規定に照らして右特約は有効であり、原告ら側の中止の申出にもかゝわらず、同条に定める協議ないし承諾にかわる裁判所の許可の申出もなさないで、工事の続行をなした同被告の態度は、賃借人として背信性の著しいものといわねばならない。そして、他に右解除の意思表示が権利の濫用と認められる証拠は存在しない。

そうだとすれば、その余の点について判断するまでもなく、原告ら側と被告吉野との間の目録(一)および(三)記載の物件の賃貸借契約は終了したものといわねばならず、その契約の存続を前提とする被告会社の抗弁も理由がないものといわねばならない。

四そして、前記争のない請求原因事実によれば、原告らの被告らに対する本訴各請求はすべて正当であるのでこれを認容し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用し、仮執行宣言の申立は相当でないので、これを却下することとし、主文のとおり判決する。

(若林昌子)

目録、図面〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例